福島の第一原子力発電所の事故は、技術、経営の分野のみならず、国の安全保障政策の根幹をゆるがす極めて重大な問題であり、それを正しく認識、分析することによって得られる教訓は、今後の技術経営と国家戦略を考えるうえで、このうえなく貴重なものになる。このような認識から、この事故に関して国や東京電力が主導するかたちでの調査レポートが作成されるであろうし、さらには多くの有識者がこれをテーマに書籍を刊行することになるであろう。ただ、前者に関しては主導者・資金提供者の意向がそこに投影される可能性が否定できず、後者に関してはその内容が市場原理からは免れることはあり得ない。こうした事情を踏まえ、完全に第三者の立場から冷静に今回の事故を調査、分析し、そこから得られる教訓を後世に伝え、一つの提言として広く提示することを本レポート刊行の目的とする。
- ●寄付金を募り、それを原資としてレポートを作成、刊行する。本プロジェクトを「FUKUSHIMAプロジェクト」と呼び、それを推進するために組織する委員会がこれを遂行する。書籍の企画・編集に関しては、委員会の下部組織として設置する編集部会が担当する。編集部会は成果物であるレポートを書籍化し、刊行するための実務作業を委員会が適切と判断した事業者、個人に委託する。
- ●寄付金の応募者については、本人がそれを希望しない場合を除き刊行物の巻末に氏名/名称などを記載する。
- ●委員会は本プロジェクトを無報酬で遂行する。印税も受け取らない。
- ●寄付金は、調査と出版のための必要経費と印刷会社など外部業者への支払いに充てる。具体的な用途に関しては、委員会のホームページなどを通じて公開する。
- ●寄付金の総額が目標額を大きく下回った場合など、レポートの書籍による刊行が困難になった場合は、電子書籍による出版など、価格に応じた手段によって調査分析結果などを公開する。
- ●刊行物はダイジェストと書籍の2種類とし、このうちダイジェストは著作権料を設定せず、無料の電子書籍として配信する。書籍に関しては、外国語への翻訳、出版の申し出がある場合は無料で翻訳権を提供する。
- ●書籍に関しては市販とし、極力低い価格で広く一般の方に購読していただくことに最大限配慮する。
- ●書籍と詳細レポートの売り上げに関しては、販売手数料、広報活動、事後調査活動などに要する費用を支払い、さらに残額が発生する場合は原発事故被害者の救済のための義援金として適切な団体に寄付する。
- ●事故の検証と分析に関しては、複数の、当該事故と直接の利害関係にない国内外の有識者によって組織する「FUKUSHIMAプロジェクト」の各委員が担当する。
- ●取材活動、資料収集活動、委員会開催など、委員会の活動に必要な経費に関しては寄付金を原資とする取材・運営費によって賄う。
(2011年10月25日現在)
- 第1章 2011年3月11日から5月15日まで
- 1・1 東電原発事故は、どのように起こったのか
- 1・2 1号機は、どのように制御不能になったのか
- 1・3 2号機と3号機は、どのように制御不能になったのか
- 1・4 5月15日の豹変
- 1・5 何をあきらかにすべきか
- 第2章 2011年3月11日まで
- 2・1 事故を防げなかった国の安全規制
- 2・2 すべて想定されていた
- 2・3 国策民営体制では責任の所在が不明確
- 第3章 2011年5月15日以降
- 3・1 事故収束までの展望
- 3・2 事故対策の検証
- 3・3 東電、保安院、政府の対応の問題
- 3・4 被害者賠償スキーム
- 3・5 ジャーナリズムは何をし、何をしなかったか
- 第4章 放射能被害
- 第5章 風評被害を考える
- 5・1 風評の恐ろしさ
- 5・2 各種メディアの取り上げ方
- 5・3 打ち手としての試み
- 5・4 検証屋機能のトライアル
- 5・5 別の可視化装置
- 5・6 総論としての日本論
- 別掲 「言語の壁」
- 別掲 「『恥辱の壁』に寄せられた『怪しい報道』の事例」
- 別掲 「ソーシャルメディアの威力──外国人ジャーナリストの経験」
- 第6章 ヨーロッパから見たFUKUSHIMA 3.11
- 6・1 イギリスから見ると
- 6・2 フランスから見ると
- 6・3 ドイツから見ると
- 第7章 日本の原子力政策が目指してきたもの
- 7・1 高速増殖炉の実現が半世紀を超える政策目標
- 7・2 核兵器製造のポテンシャルを保持する
- 7・3 エネルギー自給に固執
- 別掲 「濃縮、再処理、増殖」
- 別掲 「再処理をめぐる攻防と政策のゆらぎ」
- 別掲 「韓国・台湾における使用済み核燃料の処理」
- 第8章 原発が地域にもたらしたもの
- 8・1 4層のコロニアル構造
- 8・2 原子力は雇用増と所得増をもたらす
- 8・3 原発依存症──原発なしには、たち行かなくなる経済
- 8・4 原発立地──近年は既設発電所内の増設が主流
- 8・5 「3.11」以後の原発立地地域
- 第9章 原子力発電のコストと電力料金
- 9・1 そもそも発電コストパフォーマンス
- 9・2 原子力発電のコスト
- 9・3 電力料金──総括原価方式
- 第10章 原発普及の今後
- 10・1 原発普及は先進国からエマージング諸国へ
- 10・2 安全保障論の視点
- 10・3 新技術新製品普及の視点
- 第11章 そしてこれから
- 11・1 日本の人口減少とエネルギー需給
- 11・2 「二酸化炭素による温暖化」をどう考えるか
- 11・3 「高速増殖炉─再処理」計画の無理
- 11・4 地震国日本に原発が存在できるか
- 11・5 発送電分離/スマートグリッド/蓄電
- 11・6 保護産業論
- 11・7 再生可能エネルギー源の可能性と限界
- 11・8 日本の社会規範と福島原発事故
- 付録
- A・1 原子核エネルギー
- A・2 原子力発電のしくみ
- A・3 沸騰水型原子炉
- A・4 使用済み核燃料と放射性廃棄物
- A・5 高速増殖炉
- A・6 プルサーマル
- A・7 過去に起きた重大事故
- ・2011年3月
- :企画始動
- ・2011年4月
- :委員会の発足、情報収集開始
- ・2011年8月
- :ホームページの立ち上げ、寄付金の募集開始
:書籍刊行のための編集・執筆作業に着手 - ・2011年12月(予定)
- :書籍発売、ダイジェスト版の配信開始
- 代表発起人
- 水野博之(大阪電気通信大学副理事長、松下電器産業元副社長)
- 委員長
- 山口栄一(同志社大学ITEC副センター長)
- 編集部会長
- 西村吉雄(早稲田大学 大学院政治学研究科客員教授)
- 委員
- 河合 弘之(弁護士、さくら共同法律事務所パートナー)
- 委員
- 飯尾俊二(東京工業大学原子炉工学研究所准教授)
- 委員
- 仲森智博(日経BPコンサルティング チーフストラテジスト)
- 委員
- 川口盛之助(アーサー・D・リトル(ジャパン)アソシエイト・ディレクター)
- 委員
- 本田康二郎(同志社大学ITEC リサーチ・アソシエイト)